家と暮らしのお役立ちコラム
夏は涼しく、冬は暖かい空間作りに必要な性能は「断熱」だけ?
住宅は一度建てたら簡単には壊せないもの。途中でリフォームもできますが、費用と手間がかかります。新築時に、快適性を”建築のチカラ”=8つの性能で叶えることが、いつまでも変わらない安心につながります。
今回はこの8つの性能を「断熱・気密・遮熱・蓄熱・空気質・換気・調湿・安全」に分けて、わかりやすくお話します。
「室内環境」は、外気温度、⽇射量、⾵の強さといった、⾃然の四季の気候変化の影響を受
けながら形成されていきます。
夏は涼しく、冬は暖かい室内空間。⾔い換えれば⾃然の温度変化を緩和して、室内の変動を
より穏やかに保つことのできるパッシブ空間は、快適で住み⼼地のいい空間と⾔えるかも
しれません。
年間の温湿度変動が少ない空間として、古くからよく知られているのが「蔵座敷」。
窓を少なくして侵⼊する⽇射を抑え、厚い漆喰壁という「断熱性能」と「蓄熱性能」に優れ
た構法を採⽤することで、「蔵座敷」は⼀年を通して安定した環境を提供してくれます。
(写真)⼤切な品々を安全に保管する⽬的で建てられた「蔵」は、環境も安定 (室内気候研究所)
「断熱」と「蓄熱」の組み合わせで、安定した環境を創⽣しよう!
夏のお出かけで、とても重宝するのがクーラーボックス。さらに保冷剤を併⽤すると、ボッ
クス内の温度が⼀定に保たれて、⾷品の鮮度を保ち、冷たいものを冷たい状態で維持してく
れる優れものです。でも、強⼒な保冷剤があっても断熱性能の低いボール紙の箱では、すぐ
にその効果も弱まってしまいます。
現代の⾼性能住宅では「断熱性能」を強化することで、外界の変動を室内に取り込むことに
よって⽣じるデメリットを抑制して、快適環境の創⽣と光熱費の削減を両⽴しています。
⼀⽅で⽇射が室内に差し込むと、冬場でも室温が⾼くなりすぎる現象、いわゆるオーバーヒ
ートが発⽣することが、指摘されるようにもなってきました。
室温を⼀年中安定した状態に保つためには、「断熱性能」だけでなく室内の「蓄熱性能」を
増やす必要があり、結果として暖かさや涼しさが⻑時間維持されるのです。
(室内気候研究所)
室内の熱のバランスは、「沈没しかけている船」の状態に似ている。
夏場の部屋の中の熱の流れは、熱が⽬に⾒えない事もあって、なかなか理解するのが難しい
現象だ、と⾔われています。
ここでは、室内の熱の流れと室温変動の関係を、⽔が侵⼊してきて沈没⼨前の船に喩えて説
明していくことにしましょう。
(写真)ローマのスペイン広場にある、ベルニーニ作の「バルカッチャの噴⽔」(室内気候研究所)
沈没船内の⽔位は、「浸⽔量」と「排⽔量」、そして「船の⼤きさ」で決まる!
船の浸⽔をそのまま放置し続ければ船内の⽔位はどんどん上昇して、やがて船は沈没して
しまいます。船内の⽔をどんどん掻き出すと、やがて浸⽔量と排⽔量はバランスして、⽔位
は⼀定に保たれることになります。
船への浸⽔量は、外気温度の上昇や⽇射熱によって室内へと取り込まれた熱に相当します。
また、エアコンは船底に溜まった⽔を外部へと掻き出してくれる装置です。侵⼊熱と排出熱
がバランスすると、船内の⽔位(室内の温度)は⼀定に保たれます。
ただし浸⽔量(侵⼊熱量)は気候や時間によって変化しますので、エアコンも時事刻々排熱
量を制御しながら運転することが不可⽋になります。
そこで注⽬したいのが船の⼤きさです。船の⼤きさ、つまり室内の「熱容量」が⼤きいと浸
⽔と排⽔のバランスが崩れても、⽔位が急には変化しないことに気づくでしょう。「熱容量
(蓄熱)」は安定した室温を維持するために⼤切な役割を担っているということです。
(室内気候研究所)
「潜熱蓄熱建材」は、室温変動を安定化して、省エネにも貢献する優れもの。
⽊造の⾼性能住宅は、前述のように「断熱性能」の⾼度化に着⽬して開発が進められてきた
ため、蔵座敷やコンクリート住宅に⽐較すると、室内の「蓄熱性能」にやや劣るという⽋点
が指摘されています。
四季の移ろいを室内から楽しむためには、安定した室温が不可⽋です。
潜熱蓄熱建材を利⽤した「蓄熱」構法は、四季を通して室温変動を平準化する効果があり、
エアコンの稼働状況も安定化するので、省エネルギーにも効果があります。
夏涼しく、冬暖かい住宅のためには「蓄熱性能」を⼤きくする必要がありそうです。
(写真)「抗菌」「蓄熱」「調湿」「消臭」効果の⾼い内装左官材が注⽬されています。(室内気候研究所)