家と暮らしのお役立ちコラム
第九回 フィンランドの教育
北欧フィンランド、ヘルシンキで暮らしている大村裕子です。
第九回目はフィンランド の教育についてお話します。
授業料は無料
フィンランドの義務教育は、7歳から16歳の9年間で総合学校と呼ばれています。日本の小学校、中学校にあたります。総合学校卒業後は3年間の高校や職業学校があります。その後は大学やポリテクニック(実践的な応用科学大学)に進むことができます。
驚くべきはフィンランドではこれらの教育がすべて無料なのです。総合学校では、給食も無料です。義務教育以降は、教科書代はかかりますが授業料は無料です。大学は入学試験はあるのですが、経済的な理由で大学進学を諦める必要がないのが素晴らしいと思います。みんな平等に教育の機会があるのです。
以前は日本からフィンランドの大学へ留学の場合でも、授業料が無料でした。
総合学校の先生になるには、大学の修士が必要です。フィンランドは人口550万人の人口の少ない国ですので、教育に力を入れているのだなと感じます。さらに2020年12月には、フィンランドでは義務教育を18歳まで引き上げて高校や職業学校の教材も無料になることが決まりました。
生涯教育 働いてからも学べる
まわりの話を聞いていると、フィンランドではどうやら何年か働いて、また大学に戻るということは珍しくないようです。大人になってからでも、さらに学ぶ可能性がたくさんあるのです。
大学だけではなく、大人の教育機関も色々あります。私はフィンランド語コースにいくつか通ったことがありますが、どこもとても安いと感じます。
語学学校によって違いますが、今まで一番安かったのはヘルシンキ成人教育センターで、1回約2時間、25回のコースでたったの44ユーロ (約6000円)でした。正直安いから質はそれなりなのかな・・・とあまり期待してなかったのですが、実際は内容も良かったです。この学校は、語学、料理、アート、ダンス、演劇など様々な分野のコースがあります。
市民にオープンな学校施設
ここはヘルシンキ大学の図書館です。この図書館はヘルシンキ大学の学生でなくても、自由に入ることができます。私もここでコンピューターを借りたり、本を借りたことがあります。
リラックスして本を読めるスペースや、勉強や仕事ができる場所があります。デザイナーチェアも多く使われていて、私のお気に入りの場所の1つです。食堂やカフェなども利用できます。大学の施設が市民にオープンに開かれているのがとてもいいなと思います。
インタビュー フィンランドの教育
フィンランドの建築家、クラウディア・アウエル(Auer& Sandås architects 代表) に話を聞きました。
これまで小中学校、保育園を多く設計しています。また男の子1人、女の子2人を持つお母さんです。
― 小中学校では2016年から新カリキュラムで、テーマ別学習(phenomenon-based learning)が始まったと聞きました。どの様な内容なのか教えて下さい。
アウエル 簡単にいうと、生徒はプロジェクトに取り組むような状況で、今までの科目を超えたさまざまな現象、テーマについて学習します。そしてトピックについて、生徒はいろいろな方法で調べるのです。美術、科学、演劇、歴史を通じて行われることもあるでしょう。生徒は先生と一緒にどんな方法で学ぶかを決めます。先生が知識を与えるのではなく、生徒を導き、助けることによって学習が進んでいきます。
学習は教室の机ではなく、さまざまな場所で行われます。多くの場合、さまざまなソースからデータを収集したり、実践して体験したりして学習します。 これが、フィンランドの教育システムが生徒により良い将来のスキルを提供しようとする方法です。 テーマの例としては、「天気」「時間」「季節」などがあります。
― テーマ別学習(phenomenon-based learning)によって、設計する学校はどのように変わりましたか?
アウエル フィンランドの新しい学校には、使い方に応じた様々なスペースが多くあります。先生が前に立って、生徒が席についているという伝統的な教室だけではありません。いろいろなホール、グループイベントやスポーツのための共有スペース、大きな共有の教室があります。
小さなグループのためのスペースもあります。学校の建物は学習者の多様な状況へ対応して、コミュニティの感覚を保ちながらも特別なニーズのある生徒たちには静かな場所を用意する必要があります。
色々な種類のクリエイティブな作業のためのスペースや科学実験のためのスペースは、学習者に実践する、体験することで学んでいく可能性を与えます。また屋外や周りの街も学習環境の一部です。
上の写真は、エスポ―市のための、アウロラ小学校・保育園・子供のためのヘルスセンターです。ゼロエネルギーの多目的建築として設計されました。
― フィンランドの学校は、地域住民にオープンに開かれていると思います。なぜでしょうか?
アウエル 学校の建物は市町村によって建てられ、教育を提供するだけのスペースでなく、住民により幅広いサービスを提供しています。 ヘルシンキ市では、学校のほとんどのスペースを誰でも自由に借りることができます。さまざまな組織やクラブが、夕方や週末に学校の建物でサービスを提供しています。
ヘルシンキ市は、二酸化炭素排出量を最小限に抑えることを目指しています。 空間を効率的に建設し、市所有の建物の使用時間を増やすことは、持続可能性の目標の一部です。 学校の建設と維持には膨大なリソースが必要です。 ですので、多くの方法で市民が利用できる新しい多目的な建物を建設するのです。
新しい学校は近所の小さな文化施設のようなものですね。 省エネルギーでハンディキャップがある方にも優しい建物になっています。
ヤコマエン シュダンは多目的なサービスを提供する建物として、ヘルシンキ市のために設計されました。小学校、中学校、保育園、若者のためのユースセンター、遊び場の施設、スポーツホール、近隣住民が利用できるさまざまなスペースがあります。2020年8月完成しました。
ヘルシンキ市による建物紹介の動画です。音声はないので、分かりやすいと思います。ぜひのぞいてみてください。
参照