《特別対談》一枚一枚に秘められた美 ― 時を超えて愛され続けるタイル開発の物語 ―
対談
株式会社東濃LIXIL製作所 タイル事業部タイル製造部 東濃工場 技術課 課長
越智 英治氏 (写真左)
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株式会社 北洲 デザイナー
田中 裕也氏 (写真右)
外壁材は、住宅の顔ともいえるデザインの重要な要素です。その一方で、雨風や紫外線といった厳しい環境に晒されるため、経年劣化への抵抗力も求められます。
このような要素を見事に満たす素材がタイルです。タイルは、デザインの美しさと、耐久性を両立させ、理想的な外壁材としての性質を備えています。 北洲ハウジングでは、2004年の開発以来、人気商品として今もなお使われている「簾(スダレ)」というオリジナルタイルがあります。開発に携わったのは、LIXIL(当時のINAX)のタイル技術者 越智(おち)英治さんと、北洲のデザイナー田中裕也。今日は二人に、開発当時を振り返りながら、タイルの魅力について紐解いてもらいました。
タイルのちからで
100年の時を超える
田中 弊社はツーバイフォー工法がオープン化して間もない1979年に「北洲ハウジング」を立上げ、ツーバイフォーの高断熱・高気密住宅を、東北を中心に45年近く提供しています。
設立当初、北米の住まいを研究するために現地へ赴いたことがあるのですが、現地ガイドの方が「ここは祖父の代から住み継いでいる家だ」とか「この家は築100年以上」と案内してくれるわけです。それを見て、弊社も100年以上もつ家をつくりたいと思いました。そのためにふさわしい外壁材は何だろう?と色々探した結果、タイルに行きついたんです。
タイルのデザイン、風格と、メンテナンスフリーという2つの強みを、北洲ハウジングは当時からずっと、お客様へお伝えしています。
越智 長く住み続けるという意味で、タイル以上の素材はないと思います。
田中 耐薬品性もあり、耐候性もあり、ですよね。
越智 はい。そういった基本的な品質に関してタイルに勝るものはないと思いますので、住宅も、住宅以外でも、長く使っていただける商品です。
田中 私も家を建てて30年以上経ちますけど、やっぱりメンテナンスするのって大変です。お金もかかりますし。イニシャルコストは多少高くつくかもしれませんけど、30年後にどちらがお得かという観点でお客様へ説明しなければいけませんね。そういう意味でタイルが一番だと思います。
越智 北洲さんに使ってもらっている目地ありタイル(※1)は、とてもタイルらしいという声がありますよね。ブリックタイルもラインナップしていると思いますが、目地ありのほうがタイルっぽく感じるというか。
田中 もともとはレンガから来ていますからね。お客様からも時々「レンガで立派な建物ですね」と言われることがあります。目地ありのほうがレンガの印象が強くなるし、影が出てきますよね。目地の入れ方によって、外壁に表情がつく。タイルの色×目地の色で見え方が全然変わるじゃないですか。そうすると、見せ方が何通りにもできますよね。
越智 そうですね。目地の見え方とか施工も含めてなんですね。
※1 目地・・・タイルを配置した隙間に、モルタルやシーリングなどの目地材を充填する。
「焼き物」としての魅力
柔らかさとクラフト感
田中 オリジナルで開発したこの簾タイルは、還元焼成(※2)ですか?
越智 いえ、 これは酸化焼成(※3)なのですが、色幅があります。ぼかし施釉という、釉薬を部分的にかけ分ける方法がありますが、実はこのオリジナルタイル開発で初めて、新しいスプレーノズルの施釉方法を開発しましたし、この面状も初めてつくりました。それまでは住宅メーカーやビルダーさんとオリジナルを作るというのはあまりやっていなかったので。北洲さんのように一緒に開発して、しかもそれを長く使っていただいているというのは実は珍しいことなんです。また、発売当初は酸化品だけでしたが、現在の簾シリーズには酸化焼成と還元焼成の特徴を生かした商品をラインナップしています。
田中 すごい高級品ですよね。
越智 クラフト感とか柔らかさとか、そういう質感にこだわってつくった商品なので。よくよく見ていただくと、同じ面状があまりないと思います。表面の細い筋のところにシャモット(※4)が引っかかったり引っかからなかったりするので、ラフ面自体にもそういう特長がありますが、それが顕著に強調されている商品です。
田中 そういう細かい違いをお客様へもっとお伝えしていかなければなりませんね。
乾式製法(※5)だと高圧プレスで原料を固めるんですよね。そうすると大量生産はできるけど、こういう手づくり感が消えてしまいますよね。簾のような湿式製法(※6)のタイルのほうが個人的には好きです。
越智 湿式の柔らかさは、分かる方には分かっていただけるかなぁと思います。
田中 もっともっと高級品として扱ってほしいんですけど(笑)。 ローコスト住宅でもタイルが使われるようになってきて、タイルが高級品ではなくなってきている感もあるのかなと思います。
越智 そうかもしれません。でも薄手のタイルと比べると、近づいて見た時に、影になる部分やタイルの厚みを使ったクラフト感が分かると思います。一品物というか、自然なバラつきや味わいというのがロットによって変わってくるところがありますね。そういう部分をお客様にお伝えしていただいて、良さを感じていただけると嬉しいです。
田中 「タイル」という呼び名よりも、「焼き物」という言い方のほうがしっくりくるかも知れないですね。
※2 還元焼成・・・窯内への酸素の供給を抑えた焼成方法。意図的に色幅をつけることが可能。
※3 酸化焼成・・・焼成時に窯の通気をよくして、酸素の供給を多くした焼成方法。比較的安定した状態の色が得られる焼き方。
※4 シャモット・・・焼成したタイルを粉砕したもの。面状に変化を持たせるために、補助材料として使われる。
※5 乾式製法・・・粉末にした原料を、油圧プレスによりプレス成形する方法。大量生産に適していて、内装タイル・モザイクタイルはほとんどこの製法によってつくられている。面や形状の寸法精度が高く、仕上がりもクールな印象に。
※6 湿式製法・・・原料を練り土状にして、押出成形する方法。面や形状に柔らかい味があり、自然に近い肌合いなのでクラフト感が豊かになる。
女性の声から誕生した人気色
デザイン試作の日々・・・
田中 簾を開発する際に、(INAXの)銀座ショールームを見せてもらったのですが、色決めの際には、ショールームの女性の皆さんにも集まっていただいて。女性目線でどういった色がよいか意見を聞いて、白系統にした記憶があります。住宅の場合30~40坪前後が多いので、タイルを張ったときに、還元焼成のこげ茶のものは、威圧感があって重すぎるのかなぁと。それで白・アイボリー・ベージュ系の色にした記憶があります。
越智 簾の白は、開発初期からずっと同じ色が残っています。20年近く使っていただいていますね。使いやすいというか、建物全体で見たときによく調和する色だと思います。白と黒のツートーンの大屋根デザインとマッチするんですよね。
越智 当時の私の北洲さんに対する印象は、いい意味で、デザインのこだわりが強いというのを感じましたね。なかなか直ぐにはOKをいただけなくて(笑)。商品展開にあたり、何度も打合せを重ねました。工場に来ていただいて、試作品や生産ラインも見ていただきました。北洲さんは、タイルという焼き物に対する思い入れが強くて、デザインにもこだわりがあって。そのこだわっているデザインだからこそ、大屋根のフォルムに共感するファンが多いっていうのはものすごく感じましたね。
色味に関しても、試作を何種類もつくりながら、少しずつ狙いの意匠に近づけていきました。ご要望にお応えするために、新しい発色、スプレーや治具の技術開発を進めてきました。お客様の声を聴くというのは、弊社としても、とても大切なことだと思っています。
超高性能G3グレード仕様に
タイルラインナップが誕生
田中 情緒的なことをお話すると、自分が家に帰ってきて遠くから見たときに「あ、うちの壁カッコイイな」と。玄関のドアを開けるときに近くでみて「やっぱりうちのタイルいいよね」と思っていただけるような。そんな商品をお客様へお届けしたいんです。
越智 そういうこだわりを持ってご採用いただけると、私たちもつくり甲斐がありますし、お客様に喜んでもらえているという自負も生まれます。そこからより良い品質を追求することにも繋がると思います。
田中 つくる工程が本当にすごいですよね。
越智 一枚一枚、成形して乾燥させて焼成していく、その工程はどれも同じです。ただ、つくる過程でのこだわりや、ほかの標準品にはない意匠性や質感、そういう違いはあると思います。
今回、北洲さんでG3グレードの外断熱で、タイルの採用が可能になったと伺って、それも楽しみのひとつです。そういう使い方の幅が広がると、私たちとしてもやりがいがあります。
田中 タイルの意匠性と耐久性、それに超高断熱がセットでお届けできるわけですから。お客様へその素晴らしさを存分にお伝えしていきたいと思います。